まえがき

 

 こんにちは。三重県津市久居にある、喫茶店・出版社・本屋・デザインといった4つの文化事業を提供する複合施設、HIBIUTA AND COMPANYにて、本屋「日々詩書肆室」の「室長」を務めている、村田奈穂といいます。

 このように、自己紹介をしようとすると、いつも説明が長くなってしまい、しかも「文化複合施設? 室長?」とさらなる説明が必要になってしまうことが最近の悩み事です。その上、HIBIUTA AND COMPANYと、その母体である「ひびうた」のことについては、本一冊分くらい書かないととても満足に紹介できません。

 ということで、わたしたち「HIBIUTA AND COMPANY」のことが知りたくなった方には、日々詩編集室より刊行されている『存在している』シリーズを読まれることをお勧めします。もっとHIBIUTA AND COMPANY・ひびうたについて知りたくなった方は、ぜひお店に遊びに来てください。

 

 前置きが長くなりましたが、この度、ひびうた・HIBIUTA AND COMPANY代表の大東悠二さんとの共著で、映画についての本を書くことになりました。

 本を出しておいて恥ずかしいのですが、私が映画をよく観るようになったのは、30歳を過ぎてからです。それまでは、小学生のときにテレビで観てしまった「ジョーズ」や「八つ墓村」のトラウマで、映画というものは怖いものだという思い込みがあり、好んで観賞することは稀でした。

 そんな私が映画に出会いなおしたきっかけは、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の名画「ニュー・シネマ・パラダイス」のリバイバル上映を観たことでした。

 詩的な映像美、画面を彩る故エンニオ・モリコーネ作曲の美しい劇音楽、そして町の人々の生き生きとした交流とその中で成長する少年の時間を描いたストーリー。映画を観ている約2時間、まったく別の世界に旅していたかのような高揚感がありました。

 この映画体験に感動してから、それまでの映画嫌いが嘘のように、週一回は映画館に通い、いろいろな映画を観るようになりました。

 映画には、登場人物たちの人生が2~3時間の物語の中に、ぎゅっと凝縮されています。スクリーンは、観客席に座っている2023年の日本の私を、世界中のあらゆる時代、さらには宇宙や地底にまで飛ばしてくれる万能のタイムマシーンのようです。映画を通して、わたしたちは、自分が経験したことのない喜び、苦しみ、栄光や挫折、死や誕生を自分に引き寄せることができます。

 それは、私が普段から日常的に親しみ、読み続けてきた「本」も共通して持っている性質です。映画が時間の限られた映像というものをつかって、より身近に、臨場感を持って伝えてくれる他者の人生を、本はさらに奥まで分け入って、より長い時間をかけ、語ってくれます。どちらの表現形式が自分に向いているかは人それぞれでしょうが、社会の中で生きていくには、自分の周囲に他者が存在することを感じ、自分が知っているものだけが「生き方」ではないことを感じておいた方がよいのではないかと思います。

 映画や本、さらに演劇や漫画、アニメ、ドラマなどの「物語」は、自分とは違った人の「目」を自分の中に取り入れていくために、必要なものなのだと私は思っています。

 そう考えると、映画と本の相性が良いのも当然と言えるかもしれませんね。

 

 本書では、今までわたしたちが観賞し、感動してきた映画作品について、大東さんが映画そのもの、私が原作となった本に対する感想を綴っています。

 今回は「人情編」と銘打って、人と人との関係の尊さ、人情を感じさせる五つの映画――「レナードの朝」、「スモーク」、「ビューティフル・マインド」、「カッコーの巣の上で」、「ショーシャンクの空に」――を紹介しています。

 わたしたちは映画の専門家ではない、ただの一ファンなので、「この映画はこう見る!」といったような大それたことは言えません。ただ、「好き」な気持ちを前面に、ときには自分の人生の経験も交えて、それぞれの映画と自分とのかかわりについて語ってみたいと思っています。

 それでは、人情溢れる映画の旅をどうぞお楽しみください。

 本書で紹介する映画を観てみたいと思われる方がいらっしゃったら、わたしたちにとって最大の喜びです。

 

 

                   2023年11月5日 日々詩書肆室 室長 村田奈穂