ブックハウスひびうたの取扱出版社さん紹介④夕書房さん

こんにちは。ブックハウスひびうた管理者の村田です。

読書週間特集、ブックハウスひびうたがお世話になっている出版社さん&書籍紹介シリーズ、第四弾は茨城県つくば市を拠点とされている「夕書房」さんです。

 

夕書房

 茨城県つくば市を拠点とするひとり出版社、夕書房さん。第一作の『家をせおって歩いた』以降一貫して、世間の大きい声に流されず生きる人々を紹介しています。人間のスケールを無視した大きい力や、深く考えずに常識としてまかり通っている俗説に、NOを唱える姿勢がかっこいい出版さんです。今の時代を、曇りない目で見つめるための鏡のような本たちです。

 

『家をせおって歩いた』 村上慧 著 

 「移住を生活する」ことを決意し、発泡スチロールでつくった「家」を担いで、日本中を歩いて移動する旅を始めた25歳の美術家による、2014年4月~2015年4月の1年間の日記。

 警官に囲まれたり、心無い言葉をかけられたりもするけれど、応援してくれる人、旅を助けてくれる人も続々現れます。

 人とのつながりに助けられつつも、あくまで孤独の中に身を置き、歩きながら考えたことが率直な言葉で綴られている村上さんの日記。 社会の要請にただ応え、「職場のダンス」を踊り続けるのとは別の生き方を示してくれています。

 

『山熊田』 亀山亮 写真 

 新潟県と山形県の境に位置する山中の小村、「山熊田」。 ここでは、狩猟と山仕事を生業とする伝統的な暮らしが、連綿と受け継がれています。

 いままでアフリカやパレスチナなどの紛争地を撮影して来た亀山さんのカメラが捉えたのは、古くからのしきたりに従い、山とともに生きる人々の姿。

 巻末エッセイに著された「山熊田って名前は、生活の糧を得る順番だ」という言葉どおり、木材や山菜を与えてくれる山の恵みに感謝し、熊を狩ることで日々生死と向き合っている集落の人々。

 熊と対峙するときの真剣そのものの表情と、寄合所でお酒を飲みながら団らんするときの笑顔の対比に、自然のただなかに在ることの緊張感がうかがい知れます。

 現在の日本では失われつつある命のやり取りがむき出しになった画面に、目が釘付けになります。

 

『新版 宮澤賢治 愛のうた』 澤口たまみ 著 

 宮澤賢治には相思相愛の恋人がいた…

 敬虔な宗教観と正確な自然観察に基づいた、唯一無二の童話世界を創造し、若くして病に倒れた賢治。

 生涯女性に縁がなかったと言われる賢治ですが、作品を丹念に読み解くと、彼が愛した一人の女性の存在が浮かび上がってきました。

 賢治の故郷・岩手県盛岡市出身のエッセイストが、彼の遺した数々の詩から導き出したのは、今まで知られていなかった賢治の恋と、その悲しい顛末。

 この本を読む前と読んだ後では、賢治作品の世界の見え方が、まったく違っているでしょう。

 賢治の愛読者にとっては、孤独だった彼の生涯に、ひとときの幸せがあったと想像すると、心にしんとしたあたたかさが宿る気がします。

 

『失われたモノを求めて 不確かさの時代と芸術』 池田剛介 著 

 パフォーマンスアートや「関係性」に注目したイベントが主流を占めるようになった現代美術の世界において、モノをつくること、見ることの意味は次第に忘れられがちになっているようです。

 本書は、美術家の著者が、「作品をつくる」というアートの原点を問い直す評論集。

 つながりをどんどん広げるのがよしとされる現代社会の方向性とは裏腹に、「作品」をつくるためには、他人から距離を置く「孤立」と、自分自身との対話を深める「孤独」が必要だと説く著者。日本の赤瀬川源平など、様々な芸術家の作品を紹介しながら展開される論説には、読むほどにぐんぐん引き込まれる力があります。

 美術に興味のある方はもちろん、つながりすぎの日常に違和感や疲れを感じている方にもおススメの一冊です。

 

『彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち』 青木真兵・海青子 著 

 大学で歴史の研究をしていた夫と図書館司書だった妻は、体調の悪化をきっかけに、都会から奈良県の山村・東吉野村への移住を決意。豊かな自然に囲まれた古民家の新居で二人が始めたのは、家の居間を解放して私設図書館にすることでした。

 夫婦の蔵書を集めて始めた「人文系私設図書館 ルチャ・リブロ」は、次第に近隣遠方問わず「学び」に関心のある人々の注目を集め、関西における知の拠点となっていきます。

 本書には、館主の青木夫妻による、図書館立ち上げまでの経緯を書いたエッセイとともに、ルチャ・リブロと関りのある様々な人々と青木夫妻の対談が収められており、ルチャ・リブロの包する多様性がそのまま表れたかのような読み応えのある一冊です。

 深い知的教養をベースとしながら、まったく偉ぶらずに、訪れた人とフラットに対話を重ねる二人の姿に頭が下がります。

 

『Station』 鷲尾和彦 著 

 子供たちの手を引き、疲れを感じさせながらもまっすぐに前を向いて歩く母親。やっと乗り込んだ電車の車窓から、安心したような笑顔を見せる少女…。

 世界的な写真家が捉えたのは、新天地を目指してオーストリア・ウィーン西駅に流れ着いた難民の人々の姿。

 実際の景色の中では、すぐに人波に押し流されて、次の電車で次の場所へ消えて行ってしまう人々を、鷲尾さんのカメラは「ひとりの、かけがえのない人間」として映し出しています。

 彼らが「難民」というひとかたまりではなく、一人一人が違う希望や不安を抱いて、これから未知の世界に踏み出そうとする存在であるということを思い出すために、今開いてみてほしい写真集です。

 

『したてやのサーカス』曽我大穂・高松夕佳 著 

 そこに存在するのは、「大量の布と即興音楽、そして裸電球の灯りのみ」…。

 2013年に、音楽家の曽我大穂さん、ファッションデザイナーのスズキタカユキさん、コントラバス奏者のガンジーさんらが中心となって始めた、「1000年続く新しい舞台芸術」である「仕立て屋のサーカス」について、主催者はじめ、出演者、ゲスト、ファンが語った一冊です。

 18歳以下は無料、席の移動自由、地元のお店による会場内でのマルシェの開催など、舞台の常識をひらりと飛び越える実践が痛快です。

 物質と音や光、舞台と観客席、人と人とのあらゆる境界を融解するような「仕立て屋のサーカス」は、これからの社会が進んでいく方向を指し示しているのかもしれません。

 

『そこにすべてがあった』カイ.T.エリクソン著 宮前良平・大門大朗・高原耕平 訳 

 アメリカの炭鉱労働者の集落、バッファロー・クリークで起こった未曽有の災害。洪水による被害そのものよりも町の人々を苦しめたのは、復興の過程で進行したコミュニティの崩壊でした。

 地域のつながりを失ったことによる「集合型トラウマ」について初めて言及したといわれる歴史的名著が、大学院で災害学を研究する若き研究者さんたちによる新訳で蘇りました。

 産業により圧迫される地方の生活、大企業のずさんな管理による災害の激化、住民の気持ちを置き去りにする上からの一方的な復興計画…。

 本書で描かれるバッファロー・クリークで起こった出来事は、現代の日本で多発する災害現場の光景を彷彿とさせ、背筋が寒くなります。再び同じ過ちを繰り返さないために、心に刻み付けておきたい一冊。

 

『彼岸の図書館』の青木夫妻や『したてやのサーカス』の曽我さんなど、本の著者のみなさんとさまざまなオンラインプロジェクトを展開されている夕書房代表の高松さん。共に本を作った人たちにとても信頼されているんだなと感じます。

物静かな印象の高松さんですが、凛とした視線と言葉が印象的な方でした。夕書房さんの本も、同じように凛と背筋を伸ばして本棚に立っているように見えます。

 

ブックハウスひびうた 管理者

村田奈穂