ブックハウスひびうた 本の紹介 第一回:モモ

こんにちは。ブックハウスひびうた管理者の村田です。

猛暑に豪雨、コロナウィルス感染者の増加と、家にこもって過ごすしかない状況が続いていますね。

本屋さんに行って新しい本に出会うという経験も、いつもの夏より難しくなっているような気がします。

こんなときに私が本屋としてできることは、みなさんに「この本面白いですよー!」と紹介することくらい。

ということで、これからブックハウスひびうたで販売している本を、一冊ずつ紹介していこうと思います。

あくまで個人的な感想にすぎませんが、読んでみたい本を探すための一助になることができれば嬉しいです。

 

第一回は、ミヒャエル・エンデの名作童話『モモ』。

ずっとブックハウスひびうたからお届けしていきたい、大好きな物語です。

長くなりますが、よろしければ、読んでみてください。

 

『モモ』 ミヒャエル・エンデ 著/大島かおり 訳 岩波書店

 

 著者ミヒャエル・エンデは、1929年ドイツのバイエルン州で生まれました。

エンデが10歳の頃に第二次世界大戦が勃発。以後16歳までの少年期を、彼は戦火の下で過ごします。

 国がナチスの暴虐と戦争でボロボロに破壊されていく光景を、ミヒャエル少年は心に深く刻み込んでいました。

 戦後、エンデは数々の童話や物語を発表し、その中で、知らず知らずのうちに人々を支配する「何か」の危険性を訴え続けるのです。

 

【印象的な章タイトル】

 本文を読む前に、まず目次をじっくり眺めてみてください。

 例外はありますが、ほとんどの章が「〇〇と●●」という、反対の意味を持つふたつの単語の組み合わせになっています。

 エンデがこの章タイトルにどのような意味を込めたのかはよく分かりませんが、この目次を見ていると、この物語が鏡のようにお互いを照らし合う物事についてのお話なのかな、という気がしてきます。

 

【モモという女の子の特徴】

 『モモ』はとても有名な物語なので、お話の概要くらいは知っているという人がいるかもしれません。

 モモについてよく知られているのは、その奇妙な恰好(もじゃもじゃの髪、だぶだぶの上着、つぎはぎのスカート)と、「時間どろぼう」と戦う、ということですね。実は、よく知られているこれらのことの他に、モモという女の子には、大切な特徴があるのです。

 それは、モモが「あいての話を聞く」ことがとても得意だということです。

 モモは、ただじっと相手の傍に座って、黙って耳を傾けているだけで、その人が自分の心の奥深くに持っている思いまで聞くことができるのです。

 モモが聞くのは、人間の言葉だけではありません。彼女は、犬やコオロギなどの動物、雨、風の声までも聞くことができます。さらに、夜になって誰もいなくなると、一人で「荘厳なしずけさ」に聞き入っています。そうすると、「ひそやかな、けれどもとても壮大な」音楽が、聞こえてくるのです。

 このモモの特技が、後に時間の秘密を知るときに、とても大事になってくるのです。

 

【大人はどうして灰色の男たちの言うなりになってしまうのか】

 この物語に登場する有名な「時間どろぼう」は、「灰色の男たち」と描写されています。みんなが同じように、灰色の服を着て、灰色の帽子をかぶっています。帽子の下の顔も灰色。いつも葉巻をふかして、灰色の煙を吐き出しています。

 彼らは、誰も気が付かないうちにモモの住む町に入り込み、「時間貯蓄銀行」と称して、人間の時間をだまして巻き上げていきます。

 この本には、灰色の男がある一人の大人から時間をだましとる様子が描かれています。

 大人には、時々自分の人生が間違っていたんじゃないか、もっと外にりっぱな生活があるんじゃないか、と思ってしまう瞬間があります。灰色の男はそこに上手につけこみます。

 あなたはこんなに時間を無駄にしている、だからあなたは大成できない。時間を節約すればあなたはもっと成功して豊かになれる。

 どこかで聞いたような言葉だと思いませんか。

 エンデの生きた時代から現代まで、大人たちはずっと同じ考え方に踊らされているような気がしますね。

 もっと成功したい。もっと豊かになりたい。もっと速く、もっとたくさんのものを手に入れたい。そのためには、時間もお金も無駄なく効率的に使わなければ。

 自覚しているかしていないかは別として、この心は多くの人が持っているものです。社会のスピードが増すほど、この欲求は大きくなっているかもしれません。物語の中では滅ぼされた灰色の男たちですが、現代の社会の中では、彼らが大手を振って闊歩しているようにも思えます。

 

【ほんとうの「時間」とは何か】

 灰色の男たちにだまされないモモをたすけるために、時間をつかさどる存在であるマイスター・ホラが、自分の館にモモを招待します。

 マイスター・ホラが暮らす「時間の国」を描いた部分は、エンデが架空の空間を魅力的に描き出す力が存分に現れています。読みながら、自分の頭の中で映像を組み立ててみてくださいね。

 この「時間の国」で、モモはマイスター・ホラに時間とは何かということを教わります。といっても、難しい言葉で一方的にお説教をするのではありません。

マイスター・ホラはモモになぞなぞを出します。なぞなぞを解くことによって、モモは過去といまと未来の関係、そしてそれら全てをつなぐ時間というものの存在について学びます。もっと時間について知りたいとせがむモモに対して、ホラは自分で考えてみるよう促します。一生懸命考えた挙句、モモは時間が一種の音楽のようなものであると気づきます。

 マイスター・ホラに案内されて「時間のみなもと」を目にしたモモは、彼女がひとりで耳を傾けていた静けさの中のひそかな音楽こそ時間であったこと、そしてそれが自分の心の中にあることを知るのです。

 マイスター・ホラは、時間についてもうひとつ大切なことを教えてくれます。

彼は「人間ひとりひとりにその人の分として定められた時間をくばること」という役目を果たしているのですが、人間が「自分の時間をどうするかは、じぶんじしんできめなくてはならない」というのです。

 時間をつかさどるマイスター・ホラなら灰色の男たちを止めることも難しくないと思うのですが、灰色の男たちの発生を許したのも人間ならば、彼らをのさばらせて自分の時間を支配させているのも人間。人間が自ら進んで招いた事態を、「時間をくばる」ことだけが役割のホラには、どうすることもできないのです。

 

 巧みな言葉で人の心を操る灰色の男たちに、時間の秘密を知ったモモはどう立ち向かっていくのでしょうか。

 ここから先は、ぜひ、みなさん自身で物語を読み進めてみてください。

 読み終わって感じたこと、考えたことがあれば、ブックハウスひびうたまでお話しに来てくれたら嬉しいです。

 

ブックハウスひびうた

管理者 村田奈穂