夏休みの学生さんへ(高校生篇)

こんにちは。ブックハウスひびうた管理者の村田です。

8月に入りましたね。

去年はコロナ禍休校の影響で夏休みが短縮された学校が多かったそうですが、今年はいかがでしょうか。

もし通常通りなら、あと約1か月のお休みがあるという学生さんが多いと思います。

お休みといっても、部活に夏期講習にアルバイトと、忙しく過ごされている方もいらっしゃるでしょうが、休暇のいいところは、時間の使い方をある程度自分で決められることだと思います。

自由な時間をめいっぱい使って、普段時間がなくてできないことや、好きなこと、やりたいことに思いっきり取り組んでほしいなと思います。

 

そのうえで、本屋としてはやはり本を読んでみることをお勧めしたいです。

なぜなら、本は普段の日常生活で出会うことのない世界やものや考え方に触れる扉になるからです。

いろんな制約のために冒険ができない昨今、本は自分の世界を広げるのに最適な、思考の乗り物になってくれます。

何にもとらわれず、物の見方や考え方をどんどん拡げていけるのは、若者の特権です。

ブックハウスひびうたでは、みなさんの見えるものを少し変えるような、何かを考える端緒になる本を取り揃えています。ぜひ、読んでみたい本を探してもらえたら嬉しいです。

今回は、高校生の方に読んでいただきたい10冊の本を紹介します。

 

① 『家をせおって歩いた』 村上慧 著 夕書房

ー自分の生き方は自分で決めるー

「移住を生活する」ことを決意し、発泡スチロールでつくった「家」を担いで、日本中を歩いて移動する旅を始めた美術家による1年間の日記。

 警官に囲まれたり、心無い言葉をかけられたりもするけれど、応援してくれる人、旅を助けてくれる人も続々現れます。

 人とのつながりに助けられつつも、あくまで孤独の中に身を置き、歩きながら考えたことが率直な言葉で綴られている村上さんの日記。 社会の要請にただ応え、「職場のダンス」を踊り続けるのとは別の生き方を示してくれています。

 

②『本を贈る』 島田潤一郎、矢萩多聞、牟田都子、他 著 三輪舎

ーすべてのものは贈り物ー

本一冊が、どれだけの人の手を経て私たちのもとへ届けられるかをご存知ですか?

著者、編集者をはじめとして、校正、装丁、印刷、製本を手掛ける人によって形作られた本は、出版社の営業担当、取次により全国の書店に紹介され、書店員の手からみなさんのもとへ届けられます。

外から見えるより、はるかに多くの人の手を経て、リレーのバトンのように大切に、読み手のもとを目指す本。その過程に携わるすべての人が、読む人への贈り物になるいい本をつくりたい、いい本をお客さんに送りたいという切なる願いを持っています。

本に携わる様々な立場の人の思いを丁寧にくみとったこの本を読むと、一冊の本が、ひいては身の回りのものすべてが、かけがえのない贈り物に思えてきます。

 

③『10年後、ともに会いに』 寺井暁子 著 クルミド出版

―10年経っても大切なともだち―

アメリカのハイスクールを卒業した著者。世界各国から集まっていた校友たちは、卒業後また各地に旅立っていきました。高校生時代から10年を経て、自分の生き方に悩んでいた著者は、かつての友を世界中に訪ね歩くたびに出ることを決意します。

10年ぶりに会う友の中には、仕事で成功している人も、失意に沈んでいる人も、夢を追いかけ続けている人もいます。

また、常に緊張した対立関係にあるイスラエルとパレスチナの友人の間で板挟みにあう、現地を訪れているときに偶然出くわしたエジプトの民主化デモを見届ける、など、歴史の流れを否応なく感じさせる出来事にも遭遇します。そして、命を懸けて民主化を訴える人々と生活を共にする中で受け取った、東日本大震災の知らせー

時は、一人の人間の上にも、国の上にも、等しく降り積もり、変化を促します。しかし、著者が旅の中で見つけたものは、変わっていく世界の中で変わらずに残り続けるもの=人と人の間の信頼や友情だったのではないでしょうか。

 

④『今日という日を摘み取れ 渋谷敦志写真集』 渋谷敦志 著・写真 サウダージ・ブックス

―目をそらさずに直視するー

 

弾痕だらけの壁の前でサッカーをする少年、難民キャンプで食糧配給の順番を待つ人々、ゴミの山に分け入って働く子供たち…

この世界には、私たちには想像もつかないような厳しい環境の下で生きている人たちがたくさんいます。

この写真集には、世界中の過酷な生を生きる人々の姿が収められています。

痛々しい光景に、ついつい目をそらしてしまいたくなるかもしれません。

しかし、見ないふりをやめて、彼らの生命の記録をまっすぐに見つめることが、世界から悲惨をなくす第一歩になるのではないでしょうか。

本書の中には、打ちひしがれるだけではなく、厳しい状況の中でも前を向いて生きようとする人々の姿も登場します。

小さな家の前で笑顔を見せる一家の写真に、どこにあっても変わらない人間の普遍の姿を見るように感じました。

 

⑤『心のてのひらに』 稲葉真弓 著 港の人

ー他者の痛みを引き受けるー

私が生まれた日の三日後、地震は起きた――

そこに居合わせなかった痛みを抱えつつ、詩人の目は東日本大震災で命を失った人々と、被災して傷ついた人々を見つめます。

遠く離れた場所にいるからとて、人は起こった出来事と無関係でいられるわけではありません。

人の苦しみをわが苦しみとして引き受けるところに、祈りが生まれ、詩が立ち上ってきます。

自ら病床に伏し、生死を深く見つめざるを得ない中で他者に注がれる慈悲の眼差しが、深く心に突き刺さる詩集。

 

⑥『感動、』 齋藤陽道 写真 赤々舎

ーイメージの力は無限だー

思わず息を呑むような一瞬。その感情に名前をつけることはできないけれど、自分の心が動かされたのはわかる。

そんな「感動」の瞬間を、新進気鋭の写真家が捉えた写真集の第二弾。

この写真集の中に収められている同じ写真を観ても、人によってどう感じるかはまったく違うと思います。

息が止まるほど美しいと感じるか、背筋がひやっとするような恐ろしさを感じるか…

あなたがどのように感じても、「心が動いた」ということは間違いではないんだよと言ってくれているような、ふところの広さを感じさせる写真集です。

言葉がなくとも、こんなにも豊かに心の動きを表現することができる。写真の力を感じてください。

 

⑦『ダンス・イン・ザ・ファーム』 中村明珍 著 ミシマ社

ー地方で生きる光と影ー

人気ロックバンド・銀杏ボーイズのギタリスト・チンさんが、大震災をきっかけに、山口県・周防大島で農家兼僧侶兼その他もろもろに転身。

自然豊かな土地の恵みや、島のご近所さんとの親密な交流の中で送られる、「人間らしい生活」の様子が綴られています。

ところが、島と本土を結ぶ橋の事故による断水が発生。島の住民は、40日間水道水が使えない状態に追いやられて…。その対応の中に、中央と地方、公と私の「生きること」に対する視点の違いがあぶりだされます。

人が人として生きていくには、国は、地域は、個人はどうすればいいのか。考えるきっかけを与えてくれる一冊です。

 

⑧『原発の断り方』 柴原洋一 著 月兎舎

ー大きな力に負けないー

三重県にも原発が建設される予定だったこと、ご存じでしたか?

日本中で原子力発電所の建設計画が立ち上がっていた1963年、三重県の南島町(現在の南伊勢市)でも原発の誘致計画が発表。計画に対してNOの声をあげたのは、地元の漁師さんたちでした。

行政と電力会社の圧力にも負けず、37年におよぶ闘いの末、南島町の住民たちがついに原発建設計画の白紙撤回を勝ち取るまでを記録した、壮絶なドキュメント。

親密に関り、協力し合っていた住民たちが、賛成派と反対派に分かれていがみ合う。地元の絆はなぜ壊れてしまったのか。住民の涙ながらの叫びが胸に突き刺さります。

福島第一原発事故を経て、原発問題を考えるために読んでおきたい一冊。

 

⑨『新装アニミズムという希望』 山尾三省 著 野草社

ー自然の中にカミを感じて生きるー

詩人・山尾三省が琉球大学で行った五日間の特別講義をまとめた講演録。

自作の詩の朗読を交えて行われた講義の内容は、タイトルにもなっている「アニミズム」に関することから、自らの屋久島での暮らし、原発のことなど、多岐に及びました。

五日間の中で、三省さんが若い学生たちに何度も語りかけたのは、山や海や風がすべてカミであるならば、誰も身の回りにあるものすべてを粗雑に扱えるはずがないということ。そして、胸の中に、なにか自分が真実だと思えるものをいつも大切に持っておくこと。

変化していく世界の中で、若い人が希望を持って生きていくために、読んでほしい一冊です。

 

⑩『のどがかわいた』 大阿久佳乃 著 岬書店

ー思いを表現するー

2017年8月、本、特に詩が大好きな高校生だった大阿久さんは、行きつけの古書店店主さんの勧めにより、同年代の人たちに向けて、詩のすばらしさを表現したフリーペーパーを発行し始めます。

その名も、「詩ぃちゃん」。

フリーペーパーの中で、大阿久さんは自分の好きな詩について、どんなところがいいと思うのか、その詩を読むとどのように感じるのかを、心を込めて丁寧に説明しています。

その透徹した思考と、みずみずしい文章が人々の注目を集め、19歳の時に、いままで発行した「詩ぃちゃん」と、書きおろしのエッセイを収録したエッセイ集『のどがかわいた』を発行しました。

三重県の普通の高校生だった彼女に、どうしてこんなことができたのでしょう。

それは、彼女が自分の考えていることや、他人の表現したことに真正面から向き合い、真剣にそれについて考え、考えたことを表現することができたからだと思います。

この本には、彼女が学校生活や家庭の中で感じてきた苦しみ、怒り、疎外感などの感情も、隠すことなく率直に語られています。 自分一人の中だけでとどめて置いたら単に自分を苦しめることしかできない傷でも、考えて、表現を与えることにより、他の人を感動させたり、人に希望を与えたりすることができる。

大阿久さんの文章からは、そのようなことを学ぶことができます。

 

いかがでしょうか。読みたい本は、見つかりましたか?

気になる本があれば、ぜひお店までその本を見に来ていただけたらと思います。

 

あなたのための一冊をご用意して、お待ちしています。

 

ブックハウスひびうた

管理者 村田奈穂