こんにちは。
ブックハウスひびうたスタッフの村田です。
太平洋戦争終結後80年となる2025年、伊勢市の本屋・散策舎店主加藤優さんとブックハウスひびうた村田との共催で、日本がかかわった戦争を知るための読書会「十五年戦争を読む」を開催します。
「十五年戦争」とは、1931年に起こったいわゆる「満州事変」を起点に1945年太平洋戦争敗戦に至るまで、日本がアジア諸国、太平洋沿岸地域を舞台に繰り広げた一連の戦争を指すことばです。
この期間に日清・日露戦争を加え、明治維新後日本が突き進んだ軍国主義・植民地主義の歴史を学ぶことで、80年という長い平和の時代を生きてきたわたしたちが再び戦という同じ轍を踏まないためにはどうすればよいのか、いまだに争いの中にある世界の中で何を大切にして生きていけばよいのかということを考えたいという思いのもと、この読書会を企画しました。
ただ単に歴史を学ぶだけではなく、その時代を生きた人々の言葉やその時代を描いた文学を読んで、わたしたちと同じ生きて考えて行動するひとりの人間が戦争という事態とどのように対峙していたかを感じ、話し合っていければと思っています。
読書会は、2025年4月~8月の5か月間、毎月一冊の課題本を軸に、日清・日露戦争~太平洋戦争終戦後までを振り返っていく予定です。
第一回を、2025年4月14日月曜日18時半~21時、コミュニティハウスひびうたにて開催しました。
平日の夕方という忙しい時間帯にも関わらず、9名の参加者が集ってくれました。

全員での自己紹介のあと、主催の本屋・散策舎加藤さんより、今回のテーマである「日清・日露戦争」の時代背景についてレクチャーがありました。
わたしたちの手元には二種類の年表と一枚の地図。
様々な地域の名前が記された年表は、時代が下るにしたがって色のついた箇所が広がっています。
これは、1890年代から1945年にかけて日本が植民地支配をしていた地域を表したもの。富国強兵の掛け声のもと、日本が東アジアのみならず、東南アジアや南西諸島まで広く侵出していったことが一目でわかります。
また、今回扱った時代に日本が侵攻した国や地域の地図に色を塗っていくワークでは、その範囲の広さ戦争を目と手で実感することができました。
日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦で続けて戦勝国となり勢力を押し広げてきた日本。無理な拡大政策が、自国民や植民地支配を受ける地域の人々の命を軽々しく使い捨てにする傾向につながっていきます。
休憩をはさんで、今回の課題本である小林多喜二「蟹工船」の読書会を行いました。
今回読む範囲は、冒頭出航前の船の様子を描いた場面、中盤乗組員のこれまで辿って来た人生が描かれる場面の2カ所。
それぞれの場面を15分程かけて読んだ後、参加者それぞれが読んだ箇所の感想を発表します。
冒頭の場面で話題になったのは、小林多喜二の仕掛ける状況描写の巧みさ。映画のカメラのようにこれから船に乗り込むさまざまな人物をまんべんなくとらえつつも、「人物の登場順が階級のピラミッドを示唆している」「煙草を投げ捨てる描写が、使い捨てにされる登場人物たちの運命を予期させる」など、今後の物語の展開を象徴する要素を感じ取っている人が多かったです。
中盤、当時の労働者がおかれた劣悪な環境が描かれる部分では、「辛くて薄目を開けた状態でしか読めなかった」という人も。モノのように酷使されて潰れたら使い捨てられる。そのような労働者の姿に日露戦争の激戦に動員されて命を散らしていった兵士の姿を重ねる人、自らの労働環境を振り返って人間を「労働力」としてしかカウントしない風潮は果たしてこの時代に限ったことなのかと疑問を呈する人もいました。
一人の人から発せられた質問に対し、参加者みんなで調べて考えて意見を交わす場面も。
そこにいる全員がお互いの言葉を真剣に受け止め、ともに考える場が自然に生まれていました。
あっという間に時間が過ぎ、予定していた最終場面まで読むことができませんでしたが、大変充実した会になったと思います。
最後みなさんからの感想をおうかがいしたときには、十五年戦争や昭和の時代、プロレタリア文学に関する関連本もたくさん紹介していただきました。
参加してくださったみなさん、共催の加藤さんの熱意のおかげで、素晴らしいスタートを切ることができた「十五年戦争を読む。
次は5月12日月曜日18時半~21時、コミュニティハウスひびうたにて第2回を開催します。
十五年戦争の端緒となる「満州事変」について、満州からの引き上げを描いた小説『朱夏』(宮尾登美子 著/新潮文庫)を読んで学びます。
課題本は注文も承っておりますので、『蟹工船』や『朱夏』を読んでみたいと思った方は、本屋・散策舎さんあるいはブックハウスひびうたまでお気軽にご連絡ください。
「十五年戦争を読む」については、本屋・散策舎さんのホームページもぜひご覧ください。
(https://sansakusha.square.site/s/stories/2025-80)
次回もみなさんと一緒に話し合えることを楽しみにしています。
2025年4月 ブックハウスひびうた 村田奈穂

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