当事者研究について

☆自分が苦労の主人公

 北海道の南の先、襟裳岬の近くにある浦河町には「べてるの家」という一九七〇年代から活動を続ける精神障害を経験した当事者たちの共同体があります。

 べてるの家は、一五〇人ほどのメンバーが、地元の日高昆布の加工・販売をはじめとするさまざまな事業を地域で担いながら、全国で講演も行うなど、多岐に渡る活動を行っています。

 三〇年以上続くそうのような当事者活動のなかで、近年、メンバーが利用する浦川赤十字病院のデイケアや通称ニューべてると呼ばれる昆布の作業所では、当事者が主役になり、自らがかかえる生きづらに「研究」という視点でアプローチする「当事者研究」という自助プログラムが盛んに行われるようになっています。

 当事者研究は、症状、服薬、生活上の課題、人間関係、仕事などのさまざまな苦労を自分が苦労の主人公ー当事者ーとなって、自ら主体的に「研究しよう!」と取り組み、従来とは違った視点や切り口でアプローチしていくことによって起きてくる困難を解消し、暮らしやすさを模索していこうというものです。

 

☆当事者研究は自分を助けるアプローチ

 浦河では一九九二年からSST(生活技能訓練)が導入され、エンパワメント・アプローチの核となるプログラムとして積極的に活用されていますが、当事者研究はそうしたSSTなどを中心として連綿と続けられてきた自助プログラムに基礎づけられています。

 精神障害を持つ人のセルフケアは、よくスポーツがうまくなることや車の運転操作を習得することに例えられます。考えたり、認知していることを実際に行動に移す際のスキル(技術)の獲得が必要不可欠になってくるなかで、それを「練習しよう」「練習すれば何とかなる」という切り口でアプローチしていくのがSSTです。

 そういう意味では、SSTは従来の自己洞察自分を見つめることーを求めたり、知識や情報伝達を中心とした心理教育プログラムに大きな変革をもたらしました。

 しかし、SSTで「練習しよう」という切り口であらゆる困難や苦労がいつもなんとかなっていくほど、当事者のかかえる苦労の現実は単純ではありません。薬ののみ忘れ、親子関係の葛藤の背景に、表には見えにくいもう一つの苦労の歯車が回っていることもあるからです。