居場所の中の居場所

5月から新たに3つの居場所が誕生します。

 

ひとつの居場所をつくると、同じニーズを抱えた複数の人が集い合います。

そこに集い合った人の中から、別のニーズを発見することがあります。

言語からも非言語からも、「ひとつの居場所の中でみんなと同じでは居られない。」

 

そんな小さな声の中のさらに小さな声に出会ったときに、私たちの真価が試されます。

これまでにつくった居場所に合った人だけが満足してくれれば良いと割り切るのか。

これまでにつくった居場所の中にさらに小さな居場所をつくって見捨てないのか。

前者と後者で葛藤が生まれ、前者を選ぶとどれだけでもできない理由を探して自分を納得させることができますが、たいてい後者に挑戦して未知の道を開拓していくことになります。

 

ただ後者には採算が付きまといます。

なぜなら、たいてい公的な制度が使えない領域まで足を踏み入れることになるからです。

公的な制度は複数の人が利用するからこそ制度として成り立っていると思いますので、少数の中のさらに少数の人が利用したいと思う制度というものは、存在しないも等しいからです。

 

だから職員と一緒にあーでもないこーでもないと文字通り頭を抱えては対話に対話を重ねます。

そして閃いたら持続可能化させるための論理を立て、文字に起こして、実行します。

その繰り返しの中で、今回新たに居場所の中にさらに小さな居場所をつくることができました。

 

1、借り上げ利用者宅制度

シェアハウスひびうたは現在3名の入居者さんが共同で生活しています。

ただ、初めに入居した2人はそれぞれの理由から共同生活することができなくなりました。

そこでまずは公的な制度を活用しようと考えました。

サテライト型住居制度といわれるもので、単身生活者が共同生活住居(本体)との交流を図りながら自立を目指すものです。

しかし、この制度を活用することはしませんでした。

なぜなら、本体との交流を必要といない二人だったからです。

制度を使うために必要のない交流をすることは本末転倒であるため、別の道を探りました。

借り上げ利用者宅制度は単身住居に引っ越す初期費用を会社が全額負担し、契約や保証人などは全て法人が行います。

サテライト型住居であれば支援費という形で行政から援助してもらえますが、この制度は独自であるため何の援助もありません。

ですので、最初はせめてひびうたの他の事業(居場所、就労支援)を利用を条件に単身生活してもらうことを考え、実際に規定も作りました。

ただどうも気持ちがすっきりとしませんでした。

単身生活に条件を付けることで、本当にしたいことができなくなってしまうと感じたからです。自前の事業で一人を囲い込むことをしている福祉法人のあり方をよく耳にします。

通う場所、働く場所、相談する人が選べず、初めから決まっているとのことです。

確かに経営のことを考えるとそうしたくなる気持ちもわかりますが、「何のため」がある限りそれをするわけにはいきません。

そこで、毎月々の家賃を支払ってもらうだけのシンプルな制度にして、何一つ条件を付けないように規定を改訂しました。

この制度によって、シェアハウスひびうたという居場所の中にさらに小さな居場所ができ、二人は自由な単身生活を始めています。

 

2、ピアサポーター制度

コーヒーハウスひびうた(就労支援)は現在13名の利用者が働いています。

珈琲の製造部門から始まり、居場所部門ができ、本屋部門ができました。

すでに居場所の中の居場所ができていたわけですが、それでもなお活き活き働くことが困難な一人がいました。

そこで居場所の中の小さな居場所の中にさらに小さな居場所をつくる挑戦が始まりました。

どうしたら活き活き働くことができるのか。

いつもながら職員ととことん話し合いました。

徹底してその一人の素敵なところや得意なことを考えました。

そして結論として「人柄」を活かして製造ではなく販売をしてもらおうという方向性が決まり、あとは方法論に議論が発展しました。

ここで大きな壁にぶち当たりました。

誰と販売に行くのか、どこに販売に行くのか。

販売に行く以上、一対一の支援は必須であり、必要だからこそではありますがいつの間にか10名にまで増えた職員を、これ以上雇用する余裕はありません。

さすがに今回ばかりは諦めの二文字が何度も何度も頭をよぎりましたが、そんなある日、居場所から楽しそうな笑い声が聞こえてきました。

笑い主はときどき居場所を利用してくれている一人で、活き活き働くことができていなかった一人と同じ特性を抱えていて、分かり合うことが自然とできる人でした。

そのとき閃光のように閃きました。

この人に支援員をやってもらったら全てがうまくいくかもしれない、と。

さっそく打診をすると、なんとちょうど求職中とのことで、引き受けてくれました。

障害者雇用と銘を打っての雇用は初めてですが、支える人も支えながら働いてもらうという新しい取り組みが始まります。

障害者雇用という制度を利用することで期間限定で援助をいただけることになりましたが、結局は利用者宅制度と同じで「何のため」を問うたときに採算よりも必要なことならやるという考えで、結局は雇用という形になり11人目の職員が誕生しました。

販路に関してはブログなどで紹介ができずにいましたが、コーヒーハウスひびうたの管理者に就任した水谷純子(じゅんちゃん)が、得意の人脈を活かしながら、新しい営業先にも率先して交渉をする獅子奮迅の働きのおかげで、月曜日から金曜日まで毎日販売に行ける段取りが整いつつあります。

こうしてピアサポーター制度(生きにくさを抱えた人同士で支え合う)という、コーヒーハウスひびうたという居場所の中にさらに小さな居場所が出来ました。

 

 

3、カブ主特典制度

ブックハウスひびうたはおかげさまでたくさんの方に支えられながら、一周年を迎えることができました。

二年目の取り組みとして管理者の村田奈穂(イモコさん)が株ではなく野菜のカブをイメージしたカブ主特典制度をやりたいと、突拍子のない提案をしてきました。

カブは野菜の中でも好きな方でしたし、本屋にカブを植えて育てるという荒唐無稽なイメージが気に入り、即採用としました。

が、カブ主になってくれたお客様にどんな特典を贈ろうかというところで悩んでいました。

そんなまたまたある日、こちらも紹介がまだできていませんが、新たに居場所のスタッフに就任した、夢が本屋さんになることの池田桂子(ビリーさん)が、「古本を売りたくて古物商を取ろうとしたけど、大家さんが認めてくれなかった。」という話をイモコさんにしているところをたまたま耳にしました。

そこでカブ主特典として、ブックハウスひびうたの本棚を利用してもらって本を販売してもらえないかと思いつきました。

思いついたら即協議ということで、コミュニティハウスひびうたの管理者の南野京子(にゃーさん)も加わっての管理者ミーティング(通称:管み)で提案すると全会一致で採択されました。

ちなみにカブ主特典制度は、以下の内容になっています。

一口(1000円)で、ブックハウスひびうた特製ブックカバーと栞をプレゼント。

三口(3000円)で、ブックハウスひびうたからお誕生日に本をプレゼント。

五口(5000円)で、ブックハウスひびうたの一棚を使って本を販売できる。

ブックハウスひびうたという本屋の中にさらに小さな本屋ができることで、より多様な声を読者に届けることができるという点も、この制度の魅力ではないかと思っています。

本屋にとっても、本屋の中の本屋にとっても、読者にとっても良い制度ができたと思います。

現在カブ主を募集していますので、興味のある方はぜひお申込みください。

私(みみちゃん)も五口買って『mimi's books』という屋号でミミズのロゴでと考えましたが、本を真剣に楽しく売りたい人に失礼なので思い直しました。

 

居場所の中に居場所をつくることは、どれも簡単なことではありませんでした。

ただ諦めずに対話を重ねていくと思いがけないことが起因となり居場所ができました。

これからも日常に溢れる小さな声に耳を澄まして、仲間の力を信じ、私たちができる精一杯の範囲で、目の前の一人から居場所をつくり続けていきたいと思います。

 

ひびうた代表

大東悠二

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コメント: 1
  • #1

    wada yoko (水曜日, 23 11月 2022 14:35)

    国の制度って、ほんと個性に合わせて使うのは、難しいんですね�