ブックハウスひびうたの取扱出版社さん紹介⑨ミシマ社さん

こんにちは。ブックハウスひびうた管理者の村田です。

 

ブックハウスひびうたがお世話になっている出版社さん&書籍紹介シリーズ第九弾は、東京と京都に拠点を持つ出版社、「ミシマ社」さんです。

 

ミシマ社

 いつも時代の最先端。といっても、ミシマ社さんが案内してくれるのは、人間を置き去りにして猛進する今の新資本主義とは真逆の行き方。暮らしのスケールをないがしろにせず、より一人一人が生き生きすることのできる社会を実現するヒントとなる良著を常に届けてくれています。小さな声が集まったら、大きな流れを変える力になり得る。ミシマ社さんの本の根底には、そんな信念が息づいているように感じます。

 

『ダンス・イン・ザ・ファーム』 中村明珍 著 ミシマ社

 人気ロックバンド・銀杏ボーイズのギタリスト・チンさんが、大震災をきっかけに、山口県・周防大島で農家兼僧侶兼その他もろもろに転身。

自然豊かな土地の恵みや、島のご近所さんとの親密な交流の中で送られる、「人間らしい生活」の様子が綴られています。

ところが、島と本土を結ぶ橋の事故による断水が発生。島の住民は、40日間水道水が使えない状態に追いやられて…。その対応の中に、中央と地方、公と私の「生きること」に対する視点の違いがあぶりだされます。

どこであれ、人が人として生きていくには、国は、地域は、個人はどうすればいいのか。示唆を与えてくれる一冊です。

 

『縁食論』 藤原辰史 著 ミシマ社

 「孤食」でも「共食」でもない、「縁食」こそがこれからの食の在り方だ。

 食を通して社会を見つめてきた著者が提唱する、孤立せず、なおかつ縛られすぎない「ゆるい連帯」を実現する方法、それが「縁食」です。

 食べる、というひとつの目的のもとに様々な背景を持つ人々が集まり、一時を共有する。そのような開かれた関係性をつくる場を社会の中にいくつも設けることによって、多様な人同士がお互いに顔見知りになって、困ったときには助け合える。

 食には、社会を変えていく力があるんですね。

 

『料理と利他』 土井善晴×中島岳志

 政治学者の中島先生がコロナ禍の社会で気になったのは、料理家の土井善晴さん。

「いい加減でええんですよ」「一汁一菜でよい」など、家事に追い詰められる主婦の心を救う存在となっている土井先生の言葉に、なぜ人は心を揺さぶられるのか?

中島先生は「利他」というキーワードのもとに土井先生の家庭料理の世界を理解していきます。

 対談の中で浮かび上がってくるのは、民藝に代表される「作為の無さ」を大切にするふたりの共通点。何かと頭で考えることが優先されがちな現代社会において、直観に従うこと、レシピを盲信しないことなど、まず自分自身の心身の声を聴くことを提案する両先生。せわしない流れに巻き込まれて生活がないがしろになりそうなときに、何度も読みなおしたい対談です。

 

『ないようである、かもしれない』星野概念 著 ミシマ社

 今まで「ない」と思っていたものでも、見方を変えるとその存在が立ち上ってくるのかもしれない…。

 精神科医にしてミュージシャンの星野概念さんが、自分の身の回りを見渡して、一見ないように思えるけれどその存在が感じられる何かを丁寧にすくい取ったエッセイ集です。

概念さんのアンテナにひっかかってくる物事は、発酵、神様、刑事のカン…と、実にさまざま。それら、よく考えると不思議なものたちを眺めることによって導き出された、「ないようである」ものを見つける方法は、「曖昧さに耐える」ことと、醸成されてくるのを「待つ」ということ。 

不寛容さを増しているといわれる社会の中で、「ないようである」もの探しをすることは、人間らしく存在し続ける手がかりになるかもしれません。

 

『菌の声を聴け』 渡邉格・麻里子 著 ミシマ社

 千葉県で産声を上げた自家製酵母を使ったパン屋さん「タルマーリー」は、東日本大震災を機に岡山県へ移転、その後さらに西の鳥取県智頭町へ。

 移動を繰り返しながら、常に「良い菌」「良い水」「良い素材」を追い求める店主の渡邉さんは、偶然の出会いを力に変え、天然麹菌の自家採取、野生の菌だけで発酵させるクラフトビールの醸造など、次々と新しい挑戦に取り組んでいきます。

 「タルマーリー」のものづくりは、人間の力だけでコントロールできるものではなく、菌との共同作業。注意して菌の声を聴かなければ、いいものはできません。

 なにごとも、自分一人の力で成し遂げられると過信せず、謙虚に周囲の人や自然の声に耳を傾けること。渡邉さんの実践は、いい仕事をするための基本を教えてくれます。

 

『ちゃぶ台7 特集:ふれる、もれる、すくわれる』 ミシマ社

 ふれる、もれる、すくわれる。この三つの動詞に共通するものってなんだろう?

 ミシマ社さん発行の「生活者のための総合雑誌」、ちゃぶ台の7号は、コロナ禍の社会の中で見失われがちな、他者に「ふれる」こと、ますますできにくくなった、ルールや常識から「もれる」ことにスポットライトを当てています。

 ミシマ社さんの書籍でお馴染みの執筆陣のみなさんによる記事は、普段よく耳にする情報とはちょっと変わった切り口で、今世の中で起きていることを提示してくれています。

 読めば、自分の中から、それまで眠っていた新しい物の見方と考えが、ふつふつと湧いてくるはず。

 もし、執筆陣の方の言葉に「ふれる」ことで、自分の思いが「もれ」てきたら、それをぜひ周りの人に伝えてみてください。そうすることで「すくわれる」人がきっといると思います。

 

『思いがけず利他』 中島岳志 著

 「利他的な行為」といえば、人のためにわざわざ何かする積極性を必要とするようなイメージですが、「思いがけず」ってどういうことなんでしょう?

 政治学者の中島岳志先生が提唱するのは、今までの「利他」のイメージを180°転換する「与格的」な利他の在り方。

 落語や仏教など、日本人が昔から親しんできた文化の中に表れる、意図せずとも「やって来る」利他的な心。人が真に利他的であるためには、その利他を呼び込む「器」になることだそうです。

 意図的に「利他的であろう」とすることは、知らないうちに他者を支配することになってしまっているかも。まずはこの本を読むことから、新しい「利他」をはじめましょう。

 

『その農地、私が買います』 高橋久美子 著

 幼いころから慣れ親しんだ実家の畑が、太陽光パネルにされてしまう。東京で暮らすアーティストである高橋さんちの次女・久美子さんが、愛媛の実家の危機に立ち上がります。

 足並みを乱すことを嫌う地元の人々を説得し、若い農業志望者を仲間にして、再出発した高橋家の畑。しかし、地球環境の変化に伴い激化する獣害や、農地取得のための煩雑すぎる手続き、旧態依然とした価値観が支配する自治会など、さまざまな困難が行く手に立ちふさがります。落ち込んではまた次の可能性のために奔走する高橋さんの姿に、勇気をもらえる奮闘記。

 また、一世代限りの「F1種」や農薬散布の是非についてなど、現代の農を取り巻く問題を、高橋さんと一緒に考えるきっかけにもなる一冊です。

 

ミシマ社さんの本を読んでいると、本当に学ぶところが多いです。…というのは、みなさんが感じていることでしょうが、ミシマ社さんの本が違うところは、「今から実践してみようかな」と思えるところ。難しい理念も、自分の身近な場所から始まっている、自分の小さな行動で世の中を変えることができると信じることができるのです。

それは、個人の出版社さんと小規模の本屋さんの取引をしやすくするために「一冊!取引所」というシステムをつくるなど、自分たちが必要だと思うことをどんどん実現されてきた代表の三島さんと、仲間のみなさんの心意気に依るところが大きいのではないでしょうか。

これからも、ミシマ社さんの本からどのような新しい考え方に出会えるのか、楽しみです。

 

ブックハウスひびうた 管理者

村田奈穂