夏休みの学生さんへ(中学生篇)

夏休みの学生さんへ(中学生篇)

こんにちは。ブックハウスひびうた担当者の村田です。

毎日暑いですね! ラジオでもテレビでも、「熱中症の危険があるので、なるべく外出を避け、室内で涼しくして過ごしてください」と言われる日々…。

私が子供の頃は、夏休みと言えばプールに虫取りにと、普通に外を駆け回ることができていたので、数十年の間にどれどけ温暖化が進んでしまっているかを思い知ってぞっとします。

 

せっかくの夏休みなので、学生さんには自分の好きなことを思いっきりやってほしいなと思うのですが、コロナだとか熱中症予防だとかで、楽しみにしている予定もなくなっちゃったし、暇だな~という方。

こんなときこそ、本を読みませんか?

 

私は、夏休みになっても両親は共働きで忙しいし、一緒に遊ぶ友達もあまりいないし…ということでヒマだったので、「〇〇文庫 夏の100冊」とかいうものを読むことを数少ない楽しみにしていました。

ちょっと寂しい夏休みの思い出ですが、そのとき読んだ本が今の自分をつくってくれているのかなとも思います。

 

100冊とまではいきませんが、ブックハウスひびうたにも、夏じっくり読んでみるのにお勧めの本がありますので、紹介させてください。

ご興味のある方は、ぜひお店までお気軽にお問い合わせくださいね。

今回は〈中学生篇〉ということで、中学生の方にお勧めの本について書きました。

 

・「人のため」になるってどんなこと?

『アルバムのチカラ 増補版』 藤本智士・文/浅田政志・写真 赤々舎

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、宮城県、岩手県を中心とした東北地方の多くの地域が甚大な津波の被害を受けました。

被災地で活動するボランティアの人々が手掛けた仕事の中の一つに、写真の洗浄があります。

家族を失い、家を失い、体が傷ついた人たちがたくさんいる被災地で、なぜ写真を洗うことが必要なの?と疑問に思うかもしれません。

その答えは、この本に登場するボランティア活動に従事する人たちの奮闘ぶり、何がなんでもこの写真を持ち主に返すんだという思い、そして返ってきた写真を手に取った人の言葉を読めば、きっとわかるはずです。

ほんとうに「人のために行動する」とはどういうことなのかを教えてくれる一冊です。

 

・初めて旅に出る人に

『ロンドン・ジャングルブック』 バッジュ・シャーム作/スラニー京子 訳 三輪舎

海外旅行に行ったことはありますか? 初めて海外の国に降り立つ気持ちとは、どのようなものでしょうか。

この絵本の主人公、バッジュは、インドのゴンド族の村で生まれ育った若者。ロンドンのレストランに壁画を描く仕事を頼まれて、初めてインドを出て異国へ向けて旅立ちます。

旅行に慣れた都会の人間とは違い、ほとんど村を離れたことのないバッジュにとっては、何もかもが未知の経験。喜びと不安が入り混じった「フィフティ・フィフティ」の気持ちを抱えて踏み出した旅では、飛行機や地下鉄などの不思議な乗り物に驚いたり、ロンドンに暮らす人々との生活の違いを感じたり。

カラフルなイラストとともに、初めての旅のドキドキを味わってみてください。

 

・マニアックなものは面白い

『声に出して読みづらいロシア人』 松樟太郎 著 ミシマ社

ムゾルグスキー、スタニスラフスキー、ソルジェニーツィエン…ロシア人の名前って、どうしてこんなに独特の魅力があるんでしょう!

ロシア人の変な名前をひたすら紹介するこの本。変な響きの言葉って、ついつい一所懸命覚えようとしちゃいますよね。

まずは舌がこんがらがりそうな手ごわい名前を覚えて口に出せることを目指してみては。

そして、余裕があれば、その変な名前を持った人が何をした人で、どんな人なのか、注目してみてください。世界的な音楽家あり、近代演劇の革命的演出家あり、悲劇の詩人あり…ただ面白く読書をしているだけで、歴史上大きな役割を果たしたロシア人について、少し詳しくなれてしまいます。

楽しんで身につけた知識は、いつまでも消えないもの。読み終えたら、お友達に好きなロシア人について教えてあげるのもいいですね。

 

・今よりもう少し先の自分

『りんどう珈琲』 古川誠 著 クルミド出版

海辺の町の喫茶店でアルバイトをする高校生の柊が主人公の連作小説集。

喫茶店で出会う様々なお客さんや、いつも見守ってくれるマスターの傍で、いろいろなことを見聞きして成長していく姿を描いています。

この小説を中学生のみなさんに読んでほしい理由は、みなさんにとって少し先の未来である高校生の姿が描かれているからです。

年齢を重ねた先には、そのステージ特有の喜びや悩みが待っています。

自分の行動を、自信をもって選べるか。手に負えないような出来事に出くわしたときに、どうするか。

どのように周囲の人々と信頼関係を築いていけばいいか。

なりたい自分になるためにどのような歩みを重ねていくか、少し先の未来を思い描きながら読んでみてください。

 

・はたらくことを考える

『もう一つのものづくり- LIVE WITH RECYCLING- 平林金属写真集』 水原晶代・文/百々武・写真 赤々舎

みなさんは、普段働いている人を目にする機会はありますか?

この写真集には、金属のリサイクルを手掛けている工場の中と、そこで働いている人々の姿が収められています。

普段使っている自動車や冷蔵庫が、ぎゅっとプレスされて大量の金属の塊になっている光景は圧巻です。ふと見ると、山のように積みあがった屑鉄の前で、黙々と掃き掃除をする人の姿。

分厚いゴーグルをつけて廃材を溶接する人や、ベルトコンベアで流れてくる屑鉄を手作業で仕分ける人。

写真を眺めていると、この人たちの仕事のおかげで、一度役目を終えた金属が新たな形で世の中に循環することができているんだなということが実感できます。

廃棄されたモノに新たな命を吹き込む「もう一つのものづくり」を担う人々。誇りをもって働く人の表情は、とても晴れやかです。

 

・自分の力で生きていくということ

『火を焚きなさい 山尾三省の詩のことば』 山尾三省 著 nakaban漫画 野草社

詩人の山尾三省さんは、三十代半ばの頃それまで暮らしていた東京を離れ、屋久島でに移り住み、自給自足の生活を始めました。そして、自然の中で、家族と共に暮らす日々を詩に書きました。

この本は、山尾さんがのこしたたくさんの詩の中から、代表的なものを集めた詩集です。

 本のタイトルにもなっている「火を焚きなさい」という詩を、まずは読んでみてください。

私たちの中の多くの人は普段、コンピューターや機械に助けられて、ほとんど大変なことや苦しいことはやらなくていいくらい快適な生活を送っています。

しかし、生きていると、必ず今までのやり方ではうまくいかない、困難な出来事が訪れます。

そんなときに、自然の中に一人立って、自分のために火を熾す心を持っていると、簡単には打ちのめされない、しなやかな生き方ができるように思います。

自分の力で生きていく、ということは、一人ぼっちで生きていくということではありません。

大地の上に、自分の足でしっかり立つ。そんな生き方を教えてくれる詩集です。

 

・いのちを支えてくれているものについて知る

『いのちをつなぐ海のものがたり』 矢田勝美 著 ラトルズ

海が危険にさらされている。そんな話を、みなさんもなんとなく聞いたことがあるかもしれません。

海洋汚染や温暖化による漁獲量の減少。漁業従事者の高齢化。

海をとりまく様々な状況によって、かつてのように食卓に魚が並ぶ光景が、当たり前のものではなくなっているように思われます。

この本は、代々漁師を営む家に生まれた画家の矢田勝美さんが、海と、海で生きる漁師の姿を多くの人に知ってもらいたいという思いで生まれた一冊です。

全身全霊で海の生き物たちのいのちと向き合う漁師の生き方。

長年自分のいのちをかけて海の恵みを人々の食卓に届けてきた漁師の人々の存在が、いかに今までの自分のいのちを支えてくれているのかがよくわかります。

知ることが、変化を起こすための第一歩。

今海で起きていることについて、考える糸口にしたい本です。

 

・物語の力を味わう

『はてしない物語』 ミヒャエル・エンデ著/上田真而子・佐藤真理子 訳 岩波書店

いじめられっ子の少年、バスティアンが古本屋でみつけた一冊の本。それは、物語の国への入り口だった―。

「ネバー・エンディング・ストーリー」という映画にもなった小説なので、ストーリーをご存知の方もいるかもしれませんね。

しかし、この作品は文章で読むとますます面白い!と断言します。なぜなら、「バスティアンと一緒に読書をする」という気持ちを味わえるから。

自分がハラハラドキドキしている傍で、バスティアンも同じように手に汗を握っているような錯覚を覚えるほど、彼の姿は没頭する読書の楽しみを教えてくれます。

彼自身が物語の世界で活躍する後半になると、全力で応援し、心配したくなるほどバスティアン少年に親近感が持てるのも、前半の物語を読むという経験を一緒に通り抜けてきたからでしょうか。

少し長い本ですが、引き込まれてぐいぐい読めること間違いなし。「物語」を読む楽しみを、存分に味わってください。

 

 ・時間どろぼうに対抗する

『モモ』 ミヒャエル・エンデ 著/大島かおり 訳 岩波書店

素晴らしいストーリー・テラー、エンデの名作をもう一冊。

『モモ』。多くの人が名前は耳にしたことがあるかもしれません。

不思議な女の子、モモが、町を支配し始めた「時間どろぼう」たちとたたかいます。

あらすじを言葉にしてしまうとこんなに簡単な文章になってしまうのですが、この物語で大切なのは、この一文では語りつくせないところ。

時間どろぼうが現れる前の町の人たちが、どれほど生き生きと自分だけの人生を生きていたか。

時間どろぼうが、どんなに巧みに町の人々の時間を奪っていったか。

モモはなぜ時間どろぼうに屈せず、たたかうことができたのか。

みなさん自身で物語を読んでみて、その答えをじっくり考えてみてください。

そして、あなたが、今の社会で大手を振って大暴れしている時間どろぼうに負けないようにするためにはどうすればよいのか、その方法を見つけられればいいと思います。

 

・平和について考える

『世界 ポエマ・ナイヴネ』 チェスワフ・ミウォシュ 著/つかだみちこ・石原耒 訳 港の人

あたたかくて安らげる家庭の様子、自然豊かな窓の外の風景、遊ぶ子供たちを見守る優しい両親の姿…

言葉を追うだけで微笑みがこぼれるような情景を描いたこの詩集は、第二次世界大戦中、ナチスドイツの支配下におかれていたポーランドで書かれました。

1939年9月、覇権拡大を目論んでいたナチスドイツは、隣国ポーランドに侵攻します。空襲や銃撃戦が繰り広げられ、多くの人が亡くなりました。その数日後にはソ連もポーランドを攻め、ポーランドという国家はドイツとソ連らの間で分割統治されてしまいます。

占領下におかれたポーランドの人々は度々抵抗を企てましたが、そのたびに鎮圧され、多数の犠牲者が出ました。占領下の生活の中では自由な言論も許されず、この詩集も内緒でひっそり書かれました。

こんな地獄のような状況にありながら、著者・ミウォシュはなぜ穏やで愛すべき日常の姿を描くことができたのでしょうか。

それは、何もかもが信じられないような戦時下の世界で、それでも愛や希望を信じることが、ミウォシュにとって戦争に負けない方法だったからではないかと思います。

ミウォシュは、この詩集について、「これは、世界はいかにあるべきか、という問題をめぐる詩なのです」と述べています。

人々に恐怖と苦痛しかもたらさない戦争は、絶対に間違っている。この戦争を終わらせて、家族があたたかい家で一緒に暮らせる世界を取り戻したい。

そのような願いが、詩の一篇一篇にこめられているのではないかと感じています。

ぜひ、あなたも一篇ずつ丁寧に読んでみてください。そして、どのように感じたかを、教えてくれると嬉しいです。

 

長い文章になりましたが、読んでいただいてありがとうございます。

読んでみたい本はありましたか?

もし、「この本が読みたい!」と思ったら、いつでもお気軽に連絡くださいね。

お店でお待ちしています。

 

ブックハウスひびうた

管理者 村田奈穂