管理者あいさつ(ブックハウスひびうた)
こんにちは。
ひびうたで、私設図書館「まちライブラリー@ひびうた文庫」と、本屋「ブックハウスひびうた」を担当している、スタッフの村田奈穂と申します。
この度、ブックハウスひびうたの事業管理者に就任いたしました。今後ますますひびうたから本の面白さをみなさんに伝えていけるように努力しますので、よろしくお願いいたします。
ひびうたは、私設図書館と本屋という二種類の本と関わる場を運営しています。
私設図書館「まちライブラリー@ひびうた文庫」では、町の人々から寄贈していただいた本を集めて、貸出を行っています。また、各種イベントを開いて本について語り合う機会を設けたり、「貸本棚」サービスで、自分の好きな本をひびうたに飾ってもらい、交流のきっかけにしてもらったりしています。
本屋「ブックハウスひびうた」では、県内の書店ではあまり取り扱っていない小出版社さんの書籍や、個人で出版されているリトルプレス、交流のある古書善行堂さんに選んでいただいた古本などの書籍を販売しています。著者や編集者の方を招いてのトークイベントなども開催しています。
本に関わる様々な業務を担当しているので、ずっと本の仕事をしてきたの?と聞かれることもありますが、実は、ひびうたで働き始めるまでに本の仕事に携わったことは一度もありません。
大学を出てから、住宅リフォームの営業や飲食店の店員、病院や薬局の事務員など、いろいろな仕事に就いてきましたが、どの仕事においても、ミスを繰り返したり、人間関係のトラブルを起こしたりと、うまくいったためしがありませんでした。
自分に向いている仕事があるなんてまったく思えないまま、それでも働いていかないといけないと悩んでいた30歳のときに、大きな転機が訪れました。
体調不良が続き、病院で検査を受けたところ、大腸にガンが見つかったのです。
すぐに入院して、手術を受けましたが、病気が進んでいたため、抗がん剤治療を受けることになりました。
薬を打って数日間は、吐き気でベッドから起き上がることもできません。やっと気分がよくなったと思ったら、次の治療が待っています。免疫力が下がっているので、外出することもできません。
治療の途中で肝臓に転移が見つかったこともあり、約2年間病院と家を往復して治療を受ける生活が続きました。
家に閉じこもっている間、毎日本ばかり読んでいました。そのころは本と新聞だけが、外の世界と自分をつないでくれるものだったのです。本を読むことで、かろうじて治療の不快さや、このまま社会に戻れなかったらどうしようという不安と戦うことができていたように思います。
やっと治療が終わって、普通に外出できるようになったときには、とにかく誰かと話したくてたまりませんでした。
治療中は、家族や看護師さんとしか会わず、自分の体調の話しかしない日々が続いていました。
病気とは全然関係ないことを誰かと話して、思いっきり笑いたい。
そんなときに出会ったのが、今外部の方がひびうたで開催してくださっている「本の会」でした。
インターネットでお知らせを見て、とても引き付けられました。知らない人ばかりの集まりなら、仕事ができないみじめな自分でいなくてもいいし、好きな本の話ならいくらでもできる。
早速参加して、全然知らない人の前で、好きな本の話をすると、みんなが拍手をしたり真剣な感想を言ったり質問をしてくれたりしました。
そのときはじめて、自分の話がなんのやっかみもからかいもなく周囲に受け入れられたような気がしました。
最初に会場になっていたカフェが閉店して、会場がひびうたに引き継がれてからも、休まず参加しました。自分にとって、本の話をすることが、周囲の人とつながるかすかな糸になっていたのだと思います。
その間に職場にも復帰したのですが、休職中はあれほど早く帰りたくてたまらなかった仕事でも、早々にうまくいかなくなりました。どうしようもなくなって退職し、別の仕事に転職したものの、そこでも相変わらずの失態が続きます。
やはり自分には向いている仕事なんてないんだ。このままもうどこに行っても働けないかもしれない。
そんな不安を、本の会に参加していた時にぽろっと漏らしました。
その会の終わりに、ひびうた代表のみみちゃんから、居場所の拡張の計画と、それに伴う職員の募集のお知らせがありました。
冗談半分本気半分で、「ひびうたで働きたいな~」と言うと、なんと、「イモコさん(本の会に参加するときは、ペンネームの「アイマ イモコ」という名前を使っていました)に来てほしいと思っていたんです」とおっしゃるではありませんか。
面食らって詳しい話を聞いてみると、みみちゃんが、それまで居場所として使っていた建物の隣の棟を利用して、居場所を拡大すること、それと同時に、居場所にあった「ひびうた文庫」をもっと拡大して、まちライブラリーとして本格的に運営したいとの計画を持っていることを知りました。
そして、本の好きな私に、ひびうた文庫の管理に携わってほしいと言っていただいたのです。
驚きと感謝といろいろな思いでいっぱいになりました。
それまで、何の役にも立たないと思っていた「本が好き」という特徴を、見ていてくれた人がいる。そして、その特徴を生かして、今度こそ本当に人の役に立てる仕事ができるかもしれない。
一も二もなく、「ここで働かせてください」と真剣にお願いをしました。そして、お話をいただいてから一カ月足らずの2019年8月に、私はひびうたで働けることになりました。
ひびうた文庫を全国に800か所以上ある私設図書館のネットワーク「まちライブラリー」に登録し、地域の人からも寄贈本をいただくなど、順調な滑り出しを見せていたひびうたでの仕事ですが、ここでも大きな壁にぶつかりました。
長年の習慣になっていた敵対的なコミュニケーションの癖がネックになり、居場所での支援がうまくいかなくなったのです。
人にやさしくしなければいけないと思って焦るほど、不自然な接し方になり、自分も疲れ、相手も不快な思いにさせてしまうという悪循環に陥っていました。
せっかく本気になれる仕事に出会えたのに、ここでも結局だめなのか…。
落ち込んでいた2020年8月ころ、代表のみみちゃんに一つアドバイスをしてもらいました。
「イモコさんは、本を介してなら、人と良いつながりをつくることができると思う。もっと本の仕事に特化したほうがいいんじゃないか」
さらに、驚きの提案をいただいたのです。
「コミュニティハウスの二階で、本屋を始めよう」
コミュニティハウスひびうたの二階は、木造の漆喰壁でとても独特の魅力がある空間なのですが、そのころは倉庫になっていて、活用されていませんでした。
また、返却などが苦手で、図書館が利用しにくいという方の声も聞いており、読みたい人により確実に本を届けていくにはどうしたらいいのかということを考えていた時期でもありました。
本屋をやる理由はそろっているのですが、自分は書店については全くの素人、うまく運営できるかどうか、全然自信はありません。
しかし、チャンスをもらっている以上、やるしかない。
それから半年くらいの間に、本屋に関する本を片っ端から読み、評判の個性派本屋さんに足を運び、必死に研究を重ねました。
そうしている間に、ひびうたならではの本屋の在り方というものが、少しずつ見えてきました。
まず、世間一般で流布されている考え(大きな声)ではなく、少数派で目立たなくとも、その人が心から大切だと思って発している小さな声を届けたいということ。
そして、お客さんはもちろん、作家さんや編集者さんなどの作り手も大切にする本屋でありたいということ。
さらに、生きにくい人が読んで何か心の糧になり得るような、居場所になる一冊を届けたいということです。
これらの思いをもとに、「小さい出版社さんや、個人がつくった本を取り扱う」「直取引で、できるだけ買取で本を取り扱う」「取り扱う本をつくっている出版社さんや著者の人に直接会いに行って、本づくりにかける思いを聞く」という方針を持って、本屋をつくっていこうと決めました。
早速、置かせてもらいたい本をつくってみえた出版社さん九社(現在は11社さんと取引しています)と、リトルプレスの作家さん4名(現在は6名)にご連絡し、京都、関東一都二県までお会いしにいきました。
そのときに、どうしてもこの本を世の中の人に届けたい、この作品の良さを知ってもらいたいという出版社の方の熱い思いに触れて、本を届けるという仕事の重要さを改めて胸に刻み付けました。
そして、以前より交流のあった京都の古書店、古書善行堂の山本善行さんに、本屋を始めるという話をすると、大変喜んでいただき、古書の選定など、大きな協力をいただけることになりました。
本というものは、思いのバトンのような役割を持っていると思います。
作者から出版社へ、出版社から取次へ、取次から書店へ、書店から読者へ…
本に携わるということは、誰かの思いのバトンを、次の人へ渡すこと。特に書店員は、本の最終目的地である読者のもとへバトンを渡すという役割を担っており、責任重大です。
これまですべての仕事で失敗を繰り返していた自分に、果たしてできるだろうか。
しかし、人生の様々な場面で本に救われ、本の力を借りてきた自分だからこそできる思いの届け方があるのかもしれない。
もし、自分が誰かの思いを届けるためにできることがあるのだとすれば、やるしかない。
2021年4月23日、本屋ブックハウスひびうたはたくさんの方の協力を経て、無事船出しました。
この7月末で 本屋ブックハウスひびうたが開店して3ヶ月が経とうとしています。
運営方法に悩むことは多々ありますが、本屋でやろうと決めたことに変わりはありません。
小さな声を届けること。
作り手も、読み手も大事にすること。
心の居場所になる一冊を届けること。
この三つの原点を実現することを目標に、これからもブックハウスを運営していきます。
そして、まちライブラリーでは、本や演劇、映画などが好きな人が、仲間と思いっきり好きなことの話ができる機会をつくっていきたいと思います。
私の尊敬する本屋さんの言葉に、「本にはすべての答えがある」というものがあります。
普段は本なんて読まなくても、しんどいとき、困ったとき、もういなくなりたいと思ったときには、本屋や図書館にきて、本のページをめくってみてほしい。
あなたに寄り添う一冊を見つけられる場所になることが、ブックハウスひびうたの使命です。
ブックハウスひびうた
事業管理者 村田奈穂

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wada yoko (水曜日, 23 11月 2022 14:23)
自分の個性を生かせる仕方で、隣人とかかわりながら、無理のないペースで、生きていける場所が見つかってよかったですね�エールを送ります