「ブックハウスひびうた」への道2

こんにちは。

ブックハウスひびうた担当の村田です。

 

前回のブログで、本屋ブックハウスひびうたを始めるまでの思いを書きました。

今回のブログでは、これから始まるブックハウスひびうたが、「小さい声」を心に抱える人々の居場所であるために、どのような本を届けていこうとしているかを、紹介しようと思います。

 

ブックハウスひびうたは、古民家の屋根裏を利用した、小さい小さい空間です。

都市の大型書店のように、たくさんの本は置くことができません。

小さい本屋だからこそ届けられる本を選んでいくことが大事だと考えました。

 

ベストセラーや有名人の書いた本は、地方の大型書店や ネット書店で簡単に入手することができます。

しかし、その存在が充分に認知されていない本は、どれほどいい本であっても、地方の人の目に触れることもなければ、検索されることすらありません。

大きな出版社さんの新刊本は、毎日大量に刊行されています。

新しい本は、最新の流行や今を生き抜くスキルを惜しみなく教えてくれます。

その一方で、いつの時代の人にとっても大切なことを伝えている古い本が、どんどん絶版になっていき、忘れ去られていきます。

豪華な仕掛け絵本や、漫画・アニメ映画のノベライズなど、こどもたちが本に親しむためのきっかけになる本はどの本屋さんにも置かれていますが、いつの時代も変わらず読み継がれてきた児童文学の名作を、いつの間にかめったに見かけなくなってしまいました。

 

これらの状況について考えてみたところ、小さい本屋であるブックハウスひびうただからこそ届けたい本として、「誰もが知っているわけではないが、誰かの心に深く届く本」、「いつの時代も変わらない大切なことを教えてくれる古い本」、「今も昔も、こどもたちの心に栄養を与え続けているこどもの本」が思い浮かんできました。

 

そこで、ブックハウスひびうたでは、以下の三本柱を中心とした本を、みなさんに届けていきたいと考えています。

①小さい出版社さんの本

「ひとり出版社」ということばを、ここ数年でよく聞くようになりました。

文字通り、一人で出版社を立ち上げ、本をつくる仕事をしている人たちのことです。

出版という一言の中には、多くの仕事が含まれています。

企画を立てる、著者と打ち合わせをする、編集をする、校正をする、営業をする…すべてを書こうとすると、一冊本ができてしまうくらいです。

そのすべてを一人ないし少人数でこなすのは、想像するだけで大変な労力を必要とすることです。

ひとり出版社、また小出版社の人には、そうまでしても世の中に届けたい本があるのです。

大きな出版社にいてはつくれない本だったからこそ、小さい出版社をつくってでも、また、ひとりでも、つくるのです。

そのような熱い想いのもとにつくられた本ならば、きっと読む人の心にも熱いものを灯してくれるに違いない。

自分が読んでいても、強く心を打つ本や、深く考えさせられる本が多いです。

しかし、地方にいると、数ある小さい出版社さんの本を、本屋で目にする機会がなかなかありません。

どんなにいい本が存在するとしても、出会うことができなければ、その本に込められた思いは私たちのもとには届きません。

そこで、ブックハウスひびうたは、小さい出版社さんが心を込めてつくった本と、読者が出会える場をつくりたいと思いました。

いろいろな本を実際読んで考えたうえで、9社の出版社さんと、6人の方がつくったリトルプレス(個人がつくっている出版物)を扱うことに決めました。

さらに、それぞれの出版社の代表の方、リトルプレスの発行人の方にお会いして、出版社の立ち上げや本づくりにかける思いをおうかがいしています。

つくる人をよく知ることで、受け取る人により本の良さが伝わることを信じています。

つくる人、受け取る人がお互い笑顔になれる出会いの場がつくれるといいと思っています。

 

②古書

わたしたちは、いつでも「今、ここ」に生きています。

人間の価値観は変わりやすく、常に自分の生きている場における「今、ここ」においてよしとされる言動をしなければ、冷たい視線やこころない言葉にさらされるという経験をすることも少なくありません。

「今、ここ」の価値観は私たちの日常に深く根付いている感覚でもあるので、普段は意識しなくともそれに沿った行動ができるかもしれませんが、ふとした瞬間に息苦しさを感じる人もいることでしょう。

そもそも常識とされる価値観にどうしてもなじめなくて、ずっと苦しんでいる人もいることと思います。

そんなときに、「今、ここ」からほんの少し視点をずらすことができると、心がふっと楽になることがあります。

私たちが暮らしている地域から遠く離れた地でも人間は暮らしていて、私たちの生きている時代のはるか昔にも、人間は生きていた。

そんなことを思い出すことができたら、「今、ここ」の壁に押しつぶされそうになっていたとしても、その壁に小さな穴をあけることができるのではないでしょうか。

古い本、とくに外国の古い本を読むとき、私はいつもそのような安らぎを感じます。

その土地その時代で、正しいとされる考え方は違います。

しかし、いつの時代においても、どの国においても、変わらない人間の生き方というものもあります。

古い本は、何が流行で、何が根幹であるかを教えてくれます。

そのような古い本の知恵の力に触れてほしくて、ブックハウスひびうたでは古書も取り扱っています。

しかしながら、古書の扱いは、新米本屋には難しい。

ということで、とても頼もしい古本界の大先輩が、協力してくださることになりました。

京都市左京区にある人気の古書店、古書善行堂の店主山本善行さんは、古本ソムリエとも呼ばれる、古本界の第一人者。

豊富な本の知識と楽しいおしゃべりで、訪れる私たちをいつも元気づけてくれます。

そんな山本さんが、なんとブックハウスひびうたに置く古書の選書をしてくださっています。

本に関わる若い人にどんどん協力したいといつもおっしゃっている山本さん。

大変嬉しく、心強いお力添えに、感謝の気持ちでいっぱいです。

私も山本さんからどんどん学んでいこうと思います。

善行堂ファンのみなさん、ぜひブックハウスひびうたに、山本さんの選書を楽しみに来てください。

 

③児童文学

今回本屋を始めることになり、参考のため地域の本屋さんを見学していた時に気づいてショックだったことは、自分が子供の頃に学校図書館などで親しんでいた名作児童文学の類が、ほとんどの書店で取り扱われていないことでした。

『宝島』や、『巌窟王』、『シートン動物記』…いずれも子供ながらに心躍らせて、手に汗握りながら、あるときは胸を詰まらせながら読むことのできた、思い出の物語です。

どの時代においても、子どもの心を持っている人ならば、誰でも楽しめる作品だと思うのですが、今の子どもにとってそれらの作品と出会うのは難しいことになってしまったのでしょうか。

代わりに最近のチェーン書店の児童書コーナーで目立つのは、アニメ映画のノベライズや、マンガっぽいイラストの描かれた学園小説風の物語です。

そういった作品が悪いというつもりは全くありません。

しかし、すでによく知っている世界のみにしか触れることのできない状況の中で、子どもの無限の想像力というものは満足できるものでしょうか。

現代の作品にだって、どんどん触れてほしいのです。

それと同時に、まったく別の時代の、全然知らない国の物語に触れて、そこでも自分と同じように悩んだり喜んだりしたりする人間(いきもの)の姿を見出した時に、若い人たちの想像力の幅は、ぐんと広がるのではないでしょうか。

これからの時代において、人々はよりインターネットを通じて、世界中の多くの人とつながることができるようになるのだと思います。

そこで、PC画面の向こうで文字を打っている人が、自分と同じ人間なのであり、苦しんだり傷ついたりする存在なのだということを想像できるかどうかで、情報化社会における人間の生きやすさは大きく分かれることになると思います。

多様な時代・文化の中で生まれた文学作品に触れることは、子どもたちの心の中により柔軟な形で人間というものの姿を形作ることへの助けになると思います。

ブックハウスひびうたでは、最近では顧みられることの少なくなってしまった児童文学の名作にスポットライトを当て、若い人たちに、国や時代が違っても、生きている人間の姿に心が動かされるような経験を届けていきたいです。

 

以上、長くなりましたが、ブックハウスひびうたにおいてお届けしていくつもりの本について書きました。

本に携わる人々には、それぞれ本を受け取る先の人に、届けたい思いがあるのだと思います。

書いた人、つくった人の思いを、本を求めてやってくる人に大切にお渡しできる本屋になりたい。

そのように心がけて、これからの日々を送っていきたいです。

 

ブックハウスひびうた

管理人 村田奈穂