はたらく本

こんにちは。ひびうた文庫管理人の、アイマ イモコです。

 

トップページの代表挨拶が更新されたのを、みなさんはもうご覧いただいただろうか。

「目の前の一人から、居場所をつくる」という理念が、弊社で手掛けている事業それぞれに込められた思いを明かしながら説明されている。未見の方は、ぜひ一度ご覧ください。

文中「まちライブラリー@ひびうた文庫」の事業は、「これまで全ての就職先で孤立していた本好きのスタッフ」のために創設されたと書かれていたが、そのスタッフとは、何を隠そう私のことである。

 

思えば学生時代のアルバイトの時からぶっちぎりの仕事のできなさを発揮し、共に働く人々に迷惑をかけ続けてきた。ここで大人しく小さくなっておれば、まだ「しょうがないやつだな」とのため息だけですまされていたのかもしれないが、困ったことに、自分は何の気なくとも尊大な態度をとっているように見られるのである。できない×エラそうというのは、これは職業人としては考え得る限り最悪の組み合わせなのであって、あらゆる職場で鼻つまみ者にされるのも当然と言えよう。逆に、これまで短い期間であっても我慢して雇ってくれていた企業に対しては、感謝と驚嘆の念を禁じ得ない。

私がひびうたで働くことを決めたのはちょうど一年ほど前だが、当時は何度目かの転職に失敗して途方に暮れている最中だった。自分はこの世の中で役に立つような力をまるで持っていないように感じた。それでも働いて社会に立っていかなくてはならない今後の何十年かを思い描くと、棒切れ一本持って獅子の群れの中に飛び込んでいくときのような、不安と恐怖を感じたものだ。

そんな折に、ひびうたは、私にもひびうたに通う人たちの力になれることがあると信じて、私を仲間に迎え入れてくれたのである。何を忘れても、その時どれほどありがたく嬉しく感じたかは、忘れられるものではない。

そんなこんなで、ひびうたで働き始めてから1年が経とうとしている。充分に期待に報いているとは言えないかもしれないが、とにかく、人のためにどうすればいいかを一生懸命に考えながら働くのは、恥ずかしながら初めてである。ここからようやく真の職業人としての人生が開けるのではないかと考えたりもする。

 

いままでのトホホな職業人生の中で、はたらくということについては、嫌になるほど考えさせられた。

また、ひびうたの居場所に居て、金銭労働こそ重要な仕事であるという考え方も、随分揺さぶられることになった。

ひびうたスタッフ1年の節目を迎える今になって、改めて本を片手に、「はたらく」ことについて考えてみようと思う。

新型コロナウィルス禍のもと、仕事のやり方が変わったり、仕事を失ったりして戸惑っている人も多いかもしれない。下記の本が、「はたらく」ことを問い直すヒントになってくれれば幸いである。

 

①『道をひらく』  松下幸之助 著  PHP研究所

 経営の神様とうたわれた、パナソニックの生みの親、松下幸之助。数ある彼の著書の中でも、最も有名なもののひとつが、本書であろう。日々の暮らしから、国を思う心まで、多岐にわたる物事について、松下の思想が語られている。経営の神様が我々に伝授してくれる生きるヒントは、一見常識的に思えることばかりだ。しかし、その当たり前のことを当たり前にこなすことこそが難しいのだということを、ある程度の年数を生きてきた人間であれば、骨身に沁みて思い知っているだろう。

松下の語り口は優しいが、語られている内容はなかなか手厳しいものもある。何事も努力と工夫なしには大成しない。これがビジネスの世界における真実であるようだ。しかしながら、固くなりすぎてもうまくはいかない。気を抜かず、窮屈にならず、のバランスをとるために必要なものは、やはり人を思いやったり、敬ったりする心である。厳しく自分の姿勢をチェックしながら、前向きに自分を変えていきたくなる、働き方と生き方の教科書。

 

②『〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。スペックゼロでお金と仕事と人間関係をめぐって考えたこと』 レンタルなんもしない人著 河出書房新社

上で挙げた松下幸之助とは正反対の価値観を体現していると言えるのが、この「レンタルなんもしない人」の生き方だ。

レンタルなんもしない人とは、著者がSNS上で始めた活動で、「ご飯をたべている間同席してほしい」とか、「宿題をしている間ただ見張っていてほしい」など、頭数だけを提供するサービスで、簡単な受け答え以外は[「なんもしない」のがスタンスだ。レンタル料は無料。交通費と諸経費だけ依頼主が負担する。「そんなことをやっていて何の意味があるのか」と首をひねりたくなるかもしれないが、ただそこに存在するだけで人には価値があるということを実証するための興味深い実験のようにも思える。実際、彼に「仕事」を依頼する人は後を絶たず、SNSのフォロワーは10万人を超えるという。

考えてみれば、「なんもしない人」の圧迫感の無さは、普段使っているスマートフォンでさえ勝手に「あなたにオススメの〇〇」を押し付けてくる現代の世の中においては、貴重であると言えるかもしれない。「なんとなく傍に人がいること」や、「何も言わずにただ話を聞いてくれる人」というのは、豊かでありながら孤独化が進んでいる現代社会においてこそ必要とされる役割なのであろう。そして、そのような役割を果たすためにも、やはり努力…とは言わずとも、注意と思いやりは必要である。

ひびうたの居場所スタッフも、「ただ話を聞く」ことが重要な役割なのだが、このことが難しいのであり、未だに充分に役割を果たせなかったと反省することしきりである。「なんもしない人」を手本に、ただ存在し、ただ話を聞くことの意味を確認していきたい。

 

③『セミ』 ショーン・タン作 岸本佐知子 訳   河出書房新社

灰色の壁に、灰色の床。床には多数の書類が散らばっている。やはり灰色のスーツを着た、緑色のセミが、まっすぐ正面を向き、大きな目でこちらを見つめている。

表紙に惹かれ、「お仕事するセミかわいい!」とか言って読み始めると、すごい圧力で心をえぐられることになるので、注意してほしい。本書は職場いじめトラウマを持つ人には、身につまされ過ぎて辛い大人の絵本である。

セミは優秀な社員であるにも関わらず、人間と種族が違う故に、理不尽な差別を受けている。ずいぶんひどい扱いを受けているのだが、社内でそのことを疑問視する者は現れない。セミは不遇な十七年間の職業生活を送り、不遇なままキャリアを終える。退職してしまったら、仕事も家もお金もない。完全な孤独である。

本書はおとぎ話であるため、最後にはあっと意表をつかれる結末を迎えるのだが、これがセミでなく人間であったなら、ビルの屋上に追い詰められたときに選べる道はそれほど多くない。

学校に負けず劣らず、会社という場所も、いじめや差別の格好の温床となっている場合が多い。大人としてなんともかっこ悪い、情けないことだと思うのだけれど。組織の中でいとも簡単にいじめの構造が生まれてしまい、しかも見逃されてしまうのは、異質なものを排除しようとする傾向が生まれやすいからなのだと思う。しかし、異質なものを排除し続け、同じ考え方の者だけで凝り固まっている組織に、成長も発展も見込めない。セミの優秀さを認めず、その成果を正当に評価できない会社に、イノベーションが起こせるとはとうてい思えない。気に入らないものを簡単に迫害するのは、怠惰・慢心のなせる業である。「この人といかにお互いうまく仕事ができるか」を考え抜く方が、創造的な行為と言えないだろうか。

 

上記で紹介した本は、すべて居場所宅配サービスにてオンラインでみなさまのもとへ貸出することができます。ぜひお気軽にご利用ください。